万博で太陽電池ベストの実験 出身の婦木さんリーダーで奮闘 注目の「ペロブスカイト」技術

2025.07.14
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吉本パビリオンで、ペロブスカイト太陽電池を使ったベストの実証実験を行っている豊田合成の婦木さん=大阪市此花区で

兵庫県丹波市春日町野村出身の婦木慎一郎さん(48)は、自動車部品メーカー大手、トヨタグループの豊田合成(本社・愛知県清須市)の新価値開発部電子ソリューション開発室兼大阪・関西万博開発準備室の室長として、同万博の「よしもとwaraii myraii館」で、開発中の自社製品「スマートウェア」の実証実験に奮闘している。製品は“次世代の太陽電池”といわれる「ペロブスカイト太陽電池」を用いたベスト。実用化に向けて国内外の企業がしのぎを削る最先端の太陽電池技術を使い、ウェアでの実用化にチャレンジしている。

スマートウェアは、7・5センチ角のフィルム4枚が背中にはめ込まれており、計3ワット程度の発電ができるという。発電した電気を使い、首元のファンを回して涼しく着用する、などの活用事例を想定している。同社の従業員が吉本パビリオンの屋外で半年間、継続的に着用。天候による発電量の違いや体への影響など、さまざまなデータを集めている。

京都大発のベンチャー企業、エネコートテクノロジーズ(京都府)、繊維メーカー「セーレン」(福井県)とタッグを組んで試作開発した。

「ウェアへの実用化は世界にまだない技術なので、いわば“世界発”の実証実験」と婦木さん。「新しい技術を早く事業化し、将来は電気自動車への搭載を目指す」と話す。

豊田合成は、エアバッグやハンドル、樹脂、半導体を使った製品を強みとし、トヨタ自動車をはじめ、国内外の多様なメーカーに部品を提供。吉本興業とは企業間交流があり、吉本パビリオンが野外メインだったことなどから、同パビリオンでの実証実験に至ったという。万博では、自社のエアバッグ生地の端材を活用したバッグの使用や、ドアのゴム部品を再利用した加飾マットの提供なども行い、新たな価値を生み出すアップサイクルの取り組みも発信している。

婦木さんは、大学で電子工学を学び、丹波市内のパナソニック系照明メーカーに就職。28歳の時に「車の開発に携わりたい」と、豊田合成へ。入社後はトヨタ高級車レクサスなどの室内照明の設計などを手がけた。

2022年から新価値開発部電子ソリューション開発室長を務め、23年から大阪・関西万博開発準備室の室長を兼務し、企画、調整にあたってきた。また、ベンチャー企業への投資を行うCVCキャピタリストも務め、エネコート社への出資を通じてスマートウェアの開発を実現した。近年は、海外のスタートアップ企業への投資のために年の半分ほどはアメリカ・ワシントン州へ渡っていた。

万博会場ではさまざまな関係者の案内や、メディア対応をすることが多く、忙しい日々を送っている。地元の丹波市へ思いをはせ、「発展に寄与できるような恩返しがしたいという思いがある。出身者らとつながりができればうれしい」と笑顔を見せた。

〈ペロブスカイト太陽電池〉 塗布や印刷で量産でき、ゆがみに強く、軽量化が可能。主流のシリコン太陽電池に比べ、低コスト化も期待できるなど利点が多い。2009年に日本の研究グループが発明した技術で、主原料のヨウ素が国内で調達しやすいこともあり、国を挙げて後押ししている。大規模市場への成長が見込まれ、各国で激しい開発競争が進む。

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