試験

2013.08.10
丹波春秋

 デカンショ祭が近づいた。全国的に知られた民謡の祭典だが、デカンショの隆盛に尽くした一人に亘理(わたり)章三郎がいる。明治31年の夏、千葉県館山の旅館で同宿した旧制第一高等学校の学生たちに、亘理らがデカンショ節を教えたのがきっかけで全国に広まったとされる。▼篠山藩主青山家の子息の教育主任も務めた亘理は、東京高等師範学校で教べんを執った倫理教育学者。一高の学生との出会いがあった同年、最初の著書「試験と修養」を出版し、その序文にこう書いた。▼「今日の学問界は、試験の学問界である。学問や人徳がどれだけ進歩したかを問わずに、試験の成績がまず問われる。これは、本(もと)を忘れて末を求め、実を捨てて影を追っているようなものだ」と、試験を中心にした教育に異議を唱えた。▼先ごろ柏原で講演した金澤泰子さんも、試験中心の教育の弊害を述べていた(本紙6面掲載)。金澤さんは、ダウン症の若手書家・翔子さんの母親。学歴社会に入らず、試験を受けずにすんだ翔子さんは、そのおかげで競争心が養われず、人をうらやんだり、ねたむことがないという。▼3哲人の名前をもじったとも言われるデカンショ。その哲人の一人、カントの言葉に「人は人によりてのみ人となる」がある。言わずもがなだが、試験が、人にするのではない。(Y)

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