東京大学大学院教授 醍醐聰さん

2002.05.19
たんばのひと

詩歌好む会計学者
東京大学大学院教授 醍醐聰さん  (千葉県佐倉市在住)
 
 会計学が専門。 「会計は、 象にたとえると尻尾のような、 本来地味な存在ですが、 大企業の倒産や不正会計がマスコミを騒がせているように、 おろそかにすると尻尾が胴体を揺るがし、 命取りになることがあります」。 このところ自己矛盾を感じているそうだ。 「尻尾は、 社会がうまくいかなくなって初めて脚光を浴びるんですよ」
 早くから 「時価会計」 を提唱してきた。 「従来の簿価では実態を見誤り、 損失を先延ばしにして突然倒産ということもあるので、 早めに損失を表に出す必要があるのです」
 98年から国際会計基準が適用されることになり、 これまでの主張が実現した。 「皆と同じでなければ生きにくい日本社会では、 本来独立性の強い研究者の世界ですら、 少数意見を主張するのは勇気がいる」。 対立や議論が苦手で大勢に迎合しがちな日本人の特性を、 「これではグローバリゼーションについていけません」 と憂慮する。  最近の政治献金にからむ政界のスキャンダルに対し、 朝日新聞紙上で法律の改正を提言した。 「政府の各種審議会でメンバーをしていますが、 ここでも議論を闘わせることは少ないし、 答申を出してもなかなか通らないという実態があります」
 修士論文を書いていたころ、 先輩たちが机上の空論や大言壮語の経済理論を展開しているのを見聞きして、 実社会に役立つのかと疑問を感じ、 社会と直接の接点があり、 あいまいさを許さない数字で利害をさばいていく 「会計」 にひきつけられた。 実際には、 篠山に住む姉の歌人、 醍醐志万子さん同様に詩歌や読書が好きで、 「数字を扱うのは肌に合わない」 と笑う。
 東大生は年々質が悪くなっているという。 「まともに文章が書けない学生、 体験の乏しいひ弱な若者が多くなりました。 イメージ先行の大学です」 と手厳しい。
 「今の自分は丹波での幼児体験が生んだもの」。 帽子ですくった魚をズック靴に入れて持ち帰ったり、 野山を駆け巡ったり、 喧嘩をしたり。 人とぶつかり合ってこそ培える情操を、 近ごろの若者に望むという。
(上 高子)
 
 (だいご・さとし) 1946年 (昭和21年) 篠山市生まれ。 篠山鳳鳴高、 京都大経済学部卒。 同大学院博士課程中退。 名古屋市立大経済学部助教授、 京大経済学部助教授、 東大経済学部教授を経て、 96年より現職。

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