時間かけて患者診る
東大医学部付属病院呼吸器内科助手 山内 康宏 (やまうち やすひろ) さん (東京都在住)
1970年 (昭和45年)、 春日町生まれ。 柏原高校、 鳥取大学医学部卒業。 東京大学医学部附属病院および国立国際医療センターで内科研修医。 97年より呼吸器内科専門となる。 湯河原厚生年金病院内科医長を経て、 02年より現職。 今年4月からカナダ・モントリオールの大学へ留学予定。
臨床 (患者の診察・治療) と研究が4カ月ごとにめぐってくる。 現在は、 文献を調べたり、 呼吸器官の細胞を培養して観察したりの研究生活。 排気ガスなどの化学物質に細胞がどのように反応するか、 あるいはホルモンや白血球の変化を調べ、 治療法や薬の開発をする。
「環境が悪くなってきたせいか、 喘息や肺がんが増えていますね。 呼吸器内科を専門に選んだのは、 どんな小さな病院でもレントゲンさえあれば、 自分ひとりの判断で治療ができるからです」
最近の医療事故による訴訟問題を深刻に受け止めている。 医療の水準は今のほうが上がっているのに、 医療ミスとして訴訟が増えてきたのは、 「患者さんが欧米型の人権意識を高めてきたのに、 一部の医者が社会の変化についていけず、 十分インフォームドコンセント (納得診療) を得ていないというのも一因です。 ほとんどのドクターは患者さんを助けたいという善意の人たちなのに、 悲しい現状です」 という。
自身は患者とのコミュニケーションをとても大切にしているそうだ。 「平均5分のところ診察にひとり20分かけます」。 けれどもアメリカに比べると、 「安全ばかり優先してリスクを避ける現状のままでは、 日本の医療は進歩しません」 と憂慮する。
医者を目指した動機は、 「困っている人を助けたい。 ありがとうと言ってもらうと自分も元気をもらえるから」。 小学校のときは5キロ、 中学で10キロ、 高校で20キロ、 自転車通学をした。 忍耐力では都会出身のドクターに負けない自信がある。 「話し方もゆっくりで、 高齢の患者さんには喜ばれます」。 田舎でのんびり育ったことは 「自分の売り」だと胸を張る。 病気になったらこんなやさしい誠実なお医者さんに診てもらいたい、 と思った。
(上 高子)