農家に育ち牛を研究
京農工大学教授 賀茂前 秀夫 (かもまえ ひでお) さん (東京都府中市在住)
1948年 (昭和23年) 篠山市生まれ。 篠山鳳鳴高校、 大阪府立大学農学部卒業、 同修士課程修了後、 農林省入省。 動物衛生研究所などで勤務のあと、 89年農学博士。 94年より東京農工大学助教授として転身。 2000年、 教授に就任、 現在にいたる。
家畜の繁殖が順調に効率的に営まれるよう、 地道な研究を続けてきた。 最近、 関西文化学術研究都市にある 「私のしごと館」 に、 畜産学研究者の熟年代表としてビデオ紹介されているそうだ。
「私達は牛の命をいただいているのです。 子牛を産んでくれないと、 人間は、 肉、 ミルクなどたんぱく質の恩恵をうけられません」。 一方、 牛を 『たんぱく質生産工場』 とみなし、 極限まで生産性を追求するというやり方に疑問を感じている。 「そのような牛は結局は短命です。 むしろ資本の低投入で、 家畜との共生を目指す方向に、 私は共感しますね」
生物全体が自然環境とバランスをとりながら共生する、 「物質循環型のライフスタイル」 が求められている。 食料や飼料の大量輸入で土壌悪化や水質汚染が起きており、 家畜にも 「地産地消」 の考え方を取り入れなければ、 自然や人体への害がいずれ及んでくるという。
実家は乳牛10頭を飼う農家だった。 子供のころから牛と共に暮らし、 分娩にも立ち会った。 母牛が死ぬのを見たとき、 「将来は獣医師になりたい」 と思い、 大学は迷わず獣医学科へ進学。 厳しい卒業論文指導の下で研究が面白くなり、 臨床獣医師から研究職へ志望を変え、 牛の繁殖をライフワークと決めた。 家畜繁殖分野の研究成果は人間の不妊症の研究にも応用されている。
地球の人口爆発による食料不足が近未来に起こることを憂える。 「食料自給率が40%ということは、 もし輸入がストップしたら、 単純に言えば六割の日本人が死ぬことになる」 と指摘。 「日本のように水と緑に恵まれた国土では、 もっと自給率をあげ食料生産に真剣に取り組まなければ」
退職後は故郷で父母の営む農業を行いたいそうだ。 「できれば定年を待たずに早くもどりたい」 と柔和な笑顔を見せた。
(上 高子)