衆院選の立候補者がテレビのインタビューに答えて、「やがて手紙やはがきはなくなる」と話していた。その通りの世の中になれば、なんと情のないことか、とため息が出た。▼昔、南極昭和基地の隊員に届いた一通の電文が全員をシュンとさせた。妻から来たその電文にはたった三文字、「あなた」とあった。南極から遠く離れた日本にあって、夫をしのび、安全を気づかう妻の思いがこの三文字に凝縮されている。隊員の夫にとっても、家族からの便りがどれほど待ち遠しかったか。簡単に連絡が取れないからこそ、この三文字が琴線にふれたに違いない。▼兼好法師も手紙の情を語っている。家人が寝静まった後、夜の慰みに身の回りの道具類をかたづける。そんなとき、昔もらった便りが出てくると、いつの年、どんな機会のことだったかと思いが巡り、あはれをもよおすという。▼メールや携帯電話だと、どんな場所にいてもすぐに連絡が取れる。たやすく用が済ませる。重宝ではある。しかし、情は感じられない。効率が重んじられ、スピードが速くなるにつれて、情が薄れているように思えてならない。▼たとえば、蚊取り線香は昔、「蚊やり線香」といった。蚊を追い払う線香だったのが、それでは生ぬるいと、蚊取り線香になった。便利だが、情を感じるのは蚊やり線香だ。(Y)