「春よ来い、早く来い」。足踏みしながらやって来る春をじれったく思うとき、この童謡が頭をよぎる。三寒四温の寒さに身を縮かませながら、到来を待ちこがれた春。暦も4月になり、その春がとうとうやって来た。▼うれしいのだが、福井達雨さんの『僕アホやない人間だ?』を読んでからは、素直に春を喜べなくなった。福井さんは、知能に重い障害を持つ子どもの施設「止揚学園」の設立者。学園の日々の様子などが書かれた同書に登場する三好君の言葉が、春を喜ぶ気持ちに「待った」をかけるのだ。▼三好君は大雪の日、世話をするニワトリにお湯を与えたことがあった。夏にはカルピスをやったこともあった。ニワトリが喜ぶだろうと思ったからだ。三好君が病気のためにニワトリの世話ができなくなったとき、職員が代わって同じように世話をしたが、だんだん卵を産まなくなった。病気の治った三好君が再び世話を始めると、不思議なことに卵の数が増えていった。▼そんな三好君が春の穏やかな日に、福井さんから「春はいいな」と声をかけられ、こう応じた。「春、好きや言うたら、嫌いや言うた夏、秋、冬がかわいそうや」。▼親身になってニワトリを世話する三好君のやさしさは、季節にも向けられていた。「早く来い」と願うべきは、こんなやさしさで満ちた社会だ。 (Y)