上田康夫県立柏原病院副院長と伊関友伸城西大学准教授の講演は、 600人の聴衆に、 どのように聞こえただろう。
「県が何とかしてくれる」 はずの県立柏原病院が、 柏原赤十字病院同様に、 今にも倒れかねない危機を迎えていること、 経営感覚に乏しい県が経営を続ける限り、 柏原病院の医師充足はまずないこと、 早急に待遇改善をしなければ、 残って診察を続けている医師の逃散すら招きかねないこと、 そして何より、 医師の窮状と、 丹波地域でこれまで通りの枠組みで医療を続けることは不可能であることが、 伝わっただろうか。
国立篠山病院でつぶれ行く病院を見てきた上田氏から以前、 「国立が通ったのと同じ道をたどっているようだ」 という言葉を聞いた。 氏は、 フォーラムで絶望の淵から一筋の光明を見出そうと訴えた。 「丹波地域でも、 行政単位や関連大学のテリトリーを越えての現実的な (病院再編の) 討論が、 せめてまな板に載せられるべきであり、 そのための時間はそう多くは残されていないように思えます」 と。
医師が医療崩壊を語る時に使うキーワードの1つに、 「焼け野原論」 がある。 「いったん、 崩壊しきって (燃え尽きて) しまわなければ、 医療があるありがたさに気づかない。 だから崩壊するしかない」 という悲観的な見方だ。 上田氏の叫びを 「聞いて聞かぬふり」 をすることは、 即 「焼け野原化」 を意味する。 現場の必死の訴えに耳を貸さない薄情な地域の病院で勤務したがる奇特な医師は、 いない。
火はすでに回っている。 伊関氏から複数提示された消火方法を実行する、 しないを含め、 選択するのは市民だ。 その際 「医師にとって魅力ある」 という視点を持つことが肝要だ。 「県立柏原病院の小児科を守る会」 の母親たちが、 医師のことを思い、 受診制限を呼びかけたように、 医師の立場に立って物事を考える。 これを中心にすえたい。 (足立智和)