立ち枯れる病院(下) 医師招へい大学に依存

2007.06.11
丹波の地域医療特集

 「県立柏原病院は県に充実を強く求め、 柏原赤十字病院は丹波市が公費を投じ、 存続させる」 「市長の決断で5年後の丹波市の医療が決まる」。 丹波市議会6月7日の会派代表質問。 市民クラブ、 日本共産党議員団、 市政研究会の3会派が、 辻重五郎市長に詰め寄った。
 主張は今年1月、 病院の機能分担や最適化を模索する丹波地域医療確保対策圏域会議で示された 「役割分担案」 に基づいている。 柏原は急性期、 救急への対応や、 手術、 検査などを担い、 日赤は、 亜急性期と言われる、 回復期にあるがまだ自宅には戻れない患者を引き受ける。 丹波市医師会の田中潔会長もこれを支持。 「機能を分け、 両病院が存続するのが理想」 という。 ただし、 こう付け加える。 「医師を集めるのは、 日赤と行政の仕事。 医師会ができるのは、 夜間の応急診療など、 手助け程度のことだ」。
 議会内では 「市立病院に」 との意見がくすぶる日赤だが、 具体的な再建プランはない。 日本赤十字社兵庫県支部によると、 「丹波市立病院構想時に案をまとめたが、 市との交渉決裂後、 県支部として新しい案はまとめていない」 という。
  「県に充実を求める」 柏原も、 医師不足が顕在化し始めた頃に策定された、 県の構想 「県立病院の基本的方向」 に描かれた 「新型の救命救急センターの指定」 「周産期医療センターの開設」 といった華々しい将来像とは裏腹に衰退、 急性期を支えられなくなっている。
 立ち直るには、 医師の欠員補充を進めることが不可欠だが、 県知事が自由に異動させられる医師は、 県全体で35人 (6月1日現在) だ。 うち29人がへき地での9年間の 「お礼奉公」 が義務づけられている県養成医で、 全員が、 但馬の公立病院に投入されている。 県は、 約620人 (3月末時点) の県立病院勤務医のほぼ全員を大学医局からの派遣に頼っており、 大学からの派遣が途絶えれば、 県立は立ち行かない。 日本赤十字社も同様の事情で、 仮に柏原と日赤が統合したとしても、 互いの弱点は克服できない。
 老朽化した病棟の建て替えと運営費の補助という金銭的理由で存続問題に発展している篠山病院の問題と、 丹波市の2病院とでは、 問題の根深さが違う。
 丹波市が日赤を新しく建て替えたとしても、 医師が招へいできるかどうかは分からないが、 篠山病院にその不安はない。 篠山病院の問題は、 市民合意を得て市が公費を投入すれば解決できる。 支援金を用意するかしないかを含め、 市だけで危機が乗り越えられる。
 産婦人科医として同病院で勤務した上田康夫県立柏原病院副院長はこぼす。 「丹波市民の病院問題への関心の度合いと比べると、 篠山市民の、 篠山病院への関心が薄いようだ」。 篠山市内のある薬剤師は、 こう分析する。 「市内にほかに病院があり、 三田や神戸にも行く地域柄。 篠山病院がなくなっても特別困ることはないと思っている人が大半だろう。 『医師の供給源』 の意味がどれだけ大切かが、 市民には分からない。 その理解が進めば、 見方や考え方が違ってくると思う」。
 他圏域も生き残りの道を模索している。 但馬は、 9つある公立 (町立含む) 病院で役割分担をし、 公立豊岡(500床・豊岡市)を中核とする集約計画をまとめた。 中には、 集約で小児科医不在になった病院もある。
 三木 (323床)、 小野 (220床)、 公立社 (167床・加東市)、 西脇 (320床)、 加西 (306床) と、 北播 (5市1町、 人口約29万人) の5つの市民病院のうち、 社を除く4病院の医師派遣元の神戸大学医学部が、 これらを1つに統合する北播1病院構想を打ち出した。 各病院をそれぞれ充足させるだけの医師の派遣は困難で、 非効率と考える大学の意図が読み取れる。
 丹波市内の開業医の中には、 北播か三田・神戸北医療圏に吸収され、 人口わずか12万人弱と、 県下で最も小さい医療圏の 「丹波医療圏」 自体がなくなるとの見方をする医師もある。
 柏原はやせ細り、 日赤は倒れる寸前。 市との協議が仕切り直しになった篠山も、 「国から移譲後10年」 の法的拘束力が切れる9月が、 日一日と近づいてきている。 3病院、 この地域の医療は生き残れるのだろうか。 (足立智和)
  (おわり)[img align=left]https://tanba.jp/uploads/photos2/296.gif[/img]

関連記事