安倍首相と羊

2007.09.18
丹波春秋

 安倍首相は、「美しい国」を掲げて登場した。この美しいの「美」をよく見ると、「羊」という字が入っている。古代の中国人にとって、羊はとても大切な動物だったことの表れで、羊の全身の形を表現したのが、美という字。成熟した羊の美しさを「美」といった。▼字だけではなく、羊に関する言葉も中国には多く、そのひとつが「亡羊の歎」。学問の道が多方面にわかれていて真理を得がたいのを嘆くことをいうが、この言葉は、逃げた羊を追ううち、道が幾筋にも分かれていたため、羊を見失ったという故事から来ている。▼安倍首相も、「美しい国」という羊を追っかけた。しかし、追っかけているうちに、政治とカネの問題や年金問題などで袋小路に入り込んでしまい、にっちもさっちもいかなくなった。「こんなはずではなかった」と亡羊の歎の首相かもしれないが、巷に生きる我々こそが首相の無責任ぶりを嘆いている。▼「羊頭狗肉」という言葉もある。看板には羊の肉を出しておき、実際には狗(いぬ)の肉を売ることをいい、見かけ倒しという意味もある。首相は、「美しい国」という、まさに羊の肉の看板を掲げた。しかし、それは見かけ倒しに終わった。羊頭狗肉さながらだ。▼羊は、「善」「義」という字にも関係している。それらの字も裏切る辞任表明だった。 (Y)

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