「国語教育界の巨人」とも言われた市島出身の芦田恵之助が、いたく感動したことがきっかけで世に送り出され、今も読み継がれている名著がある。森信三の「修身教授録」。人としての生き方を説いた書だ。▼同書の「敬について」のくだりで、森はこう説く。「敬うとは、自分よりすぐれた者の一切を受け入れて吸収し、これを打ち越えようとする強力な魂の現れ」であり、一人のすぐれた人格を尊敬することが、自分を鍛える出発点になるという。尊敬できる人を持ちたいものだ。▼「私たちの地域に立派な人がいたことを伝えたい」と、篠山市西岡屋と東岡屋の住民グループが、市野眞徳の説明板をゆかりの地に設置した。眞徳は江戸末期の篠山藩士で、65歳のときに事故で両手を失うも、腕に筆をくくりつけ、藩主青山家の系譜記録である全24巻の「仰青録」を書き上げた。▼地元でも埋もれた存在だったが、地元の歴史を調べているうちにその存在を知り、説明板の設置となった。眞徳という人物は今後も語り継がれ、その不屈の精神は、住民ひとり一人に多かれ少なかれ奮起を促すに違いない。同じ風土で育った人物だから、身近に感じられ、親しみも加わって尊敬の念が深まることだろう。▼どの地域にも、尊敬できる人物がいたと思う。掘り起こし、顕彰したい。(Y)