ウサギと亀が競走し、亀が勝ったおなじみの話から何が読み取れるだろうか。競走の途中で居眠りをしたウサギ。それとは対照的にひたすら走り続けた亀から、油断大敵や地道に努力することの大切さを学ぶ。これが大方だろう。しかし、まったく違う見方があることを仏教学者のひろさちやさんが紹介している。▼ウサギと亀の話についてインド人に感想を聞いたところ、「亀は悪い奴だ」と言ったという。なぜ亀は、寝ているウサギを起こさなかったのか。もしかしたらウサギは倒れていたのかもしれない。亀は、自分が勝つことばかり考えている。だから、亀が悪いというのだ。▼力の劣る者が、力のまさる者に勝つ。その痛快さに心を奪われて肝心な点を見落としていなかったか。「勝てば官軍」の見方をしていなかったか。そんなことを問いかけているようだ。▼過日、豊岡市但東町にある「東井(とうい)義雄記念館」を初めて訪ねた。但馬で小学校教師として教育に一生を捧げた東井の教育理念を紹介している記念館で珠玉の言葉に出会った。「亀は兔になれない。しかし、日本一の亀にはなれる」。▼能力は劣っても、努力することを怠らない。人を出し抜いての勝利を潔しとしない。どんな場面にあっても、他を思いやる心を持つ。これでこそ日本一の亀になれる。(Y)