オリンピックの裏側

2008.07.28
丹波春秋

 東京五輪の女子体操に出場したチェコのチャスラフスカは、競技が始まる前、ガラスのかけらを手に入れようと必死だったという。「かけらは幸運をもたらす」という迷信に、チャスラフスカは、トップクラスの選手になっても競技の前になると、かけらを探し、お守りにした。▼東京五輪でも同様。しかし、明日が本番となっても見つからず、極度にあせっていた。競技開始の5時間前、選手村で奇跡が起きた。給仕がつまずき、お盆に積み上げたコップを落としたのだ。チェコの選手たちは、床にひざまずいて大きなかけらを探した。そのおかげでか、チャスラフスカは金メダルを獲得した。▼競技の前、選手には、はかりしれない重圧がのしかかっているだろう。ガラスのかけらには、その重圧をはね返す力があった。「私は勝てる」。そんなふうに自己暗示をかける力だ。▼マラソンの高橋尚子さんを指導した小出監督は、「お前は一番になれる。世界一になる」と、ほめちぎったという。そのほめ言葉に乗せられ、高橋さんも自己暗示をかけたに違いない。▼肉体の限界にまで挑戦し、技術を鍛えぬいた一流の選手たちだが、勝負は肉体と技だけで決まるものではない。心も大きなウエイトを占める。北京五輪まであとわずか。選手たちの心の戦いはすでに始まっている。(Y)

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