記録映画「シッコ」

2008.07.10
丹波春秋

 「他人を助けるために自己犠牲を払った人が報われない。我々のアメリカは、いつからこんな冷たい国になってしまったのか」。丹波医療再生ネットワークなどが上映した記録映画「シッコ」での、作者マイケル・ムーアの問いは鋭かった。▼9・11テロによるビル爆破事件の現場で救出作業を手伝い、有毒物の後遺症に悩む民間人が、政府の厳格な審査基準に阻まれて治療を受けられない。ムーアが彼らをキューバに連れて行ったら外国人でも無償で入院でき、ぜんそくの女性は、アメリカで120ドルする薬がたった6セントで売られていることにびっくりする。▼キューバの医療制度がそれほどばら色なのかは確信は持てないが、国民皆保険制度のないアメリカが先進国で最悪であるらしいのは、よくわかる。▼岩波新書「ルポ貧困大国アメリカ」(堤未果著)によると、盲腸で1日入院したら100万円以上かかり、民間の保険に入っていても、あれこれ理由をつけて一部しか払ってもらえない。年に200万人が個人破産するうち、半分は高額の医療費が払えないのが理由。中流家庭でも、一度の病気で貧困層に転落する恐れがあるという。▼医療費抑制のため個人負担分が上げられていく日本にとっても、アメリカのシッコ(異常な病気)ぶりはあながち他人事とは思えない。(E)

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