諸田玲子の新作「美女いくさ」(中央公論新社)は、読売新聞の連載に加筆したもの。2代将軍、徳川秀忠の6歳年上の正室となった小督(おごう)が主人公だ。▼小督は茶々(豊臣秀吉の側室、淀君)の妹。母で織田信長の妹、お市の方は、嫁ぎ先の浅井長政の滅亡後、柴田勝家と再婚させられるが、またもや落城の悲運に。3人娘は信長の弟、信包(のぶかね=後の柏原藩主)の伊勢・安濃津(津)城に身を寄せる。▼政略結婚が当然だった時代、男たちの戦、政争に翻弄されながらも宿命を受け流し、「女の戦相手は夫、婚家、己自身」と心に決めて将軍の妻にまで上り詰める小督だが、毎日が戦場のようだった。▼そんな彼女や茶々らを大坂城の時代までじっと見守ったのが、信包。信長の片腕だった彼は秀吉のもとでもよく働いたが、臆せず諫言する硬骨が災いしたか、晩年は不遇だった。これ程の人物にしては不明な部分も多いが、小督の育った津城以来、本小説の全編を通じ隠し味のように登場し、「筋を通す誠実な人物」として描かれている。生身の人間像が初めて浮かび上がったようだ。▼小督には、息子家光をめぐる乳母、やはり丹波ゆかりの春日局との確執もあった。今回のテーマではなかったが、2人の戦について、この新進女流作家ならではの続編を期待する。 (E)