子や孫を装い、窮状を訴えて「すぐにお金を振り込んで」とだます振り込め詐欺が丹波地方でも多発している。肉親の情を揺さぶる手口は卑劣極まりない。▼「断腸の思い」という言葉がある。「非常に悲しい」との意味だが、この語源には親子の情愛を思わせる話がある。中国の長江を下っていた舟に、1匹の小猿が捕らえられた。子を思う母猿は、岸辺を百里余りも走って舟に飛び込むが、そのまま息絶えた。母猿のお腹を裂いてみると、腸がずたずたになっていた。▼身命を投げてまで子を思う親の愛の深さ。それは理知のレベルでは測ることができないものだ。振り込め詐欺にだまされた人も、その手の悪行が横行していることを知らなかったはずはない。しかし、我が子が困り果てているかもしれないという事態に突然遭遇し、肉親の情を突き動かされると、人はときに冷静さを失うものなのだろう。そのことは決して責められない。▼それにしても、振り込め詐欺の犯人はいかなる者か。人には肉親の情があることを知り、それを手玉に取ると、人は狼狽することを知っている犯人。肉親の情の深さを知りながら、冷然と悪用する心中はどのようなものか。▼愛という潤いがひからびた、砂漠のような心象風景を想像する。それは現代を映し出した風景かもしれない。(Y)