定額給付金

2008.11.25
丹波春秋

 定額給付金の報道に初めて接したとき、「朝三暮四」の故事が頭に浮かんだ。猿回しの親方に飼われていた猿たちの話だ。生活が苦しくなった親方は、猿たちに「餌であるとちの実をこれからは朝に3つ、暮れに4つにする」と告げた。猿たちは怒った。そこで親方が「それでは朝に4つ、暮れに3つにしよう」と改めると、猿はみな喜んで納得したという。▼このように、目先の利害にとらわれる愚かしさを「朝三暮四」という。国の財政に対する不安、待ち受けている増税。それらを国民は忘れるほど、定額給付金という目先の利益に舞い上がると思ったのだろうか。▼朝三暮四は、『荘子』という書物のほかに『列子(れっし)』にもある。そこでは、巧みな知恵で下のものを動かす君子の英知をたたえるたとえになっているという。しかし、定額給付金は君子の英知と言えるものか。▼麻生首相の祖父、吉田茂はユーモアのセンスがあったという。晩年、外国人記者に元気な様子をほめられたとき、「元気そうなのは外見だけ。口はうまいもの以外に受けつけず、耳の方は都合の悪いことは一切聞こえません」と答え、笑わせたらしい。▼都合の悪いことは聞こえない。これが現役の首相では笑い話にならない。世論調査によると、定額給付金に対する国民の評判は芳しくない。 (Y)

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