かるたの名人位決定戦をテレビ観戦した。10年間も名人位のタイトルを防衛している永世名人に、篠山出身の岸田諭さんが挑んだ決定戦。テレビ画面からも、1対1の真剣勝負の気迫が伝わってきた。▼静まり返った会場。その静けさを切り裂くかのような、札を取るすばやい動き。静と動が織り成す緊迫感があった。さらには、名人も岸田さんも、優勢に立とうと、劣勢になろうと、表情を変えることはなく淡々としている。振る舞いが端然としている分、凄みがあった。▼宮本武蔵の「五輪書」にある兵法の心構えそのものだった。武蔵は「兵法の道においては、心の持ち方は平常の心と変わってはならない」と説く。動きが静かな時も心は静止せず、動作が激しく動く時も心を平静に保つ。名人位決定戦に、この不動の心を見る思いがした。▼岸田さんが所属する篠山かるた協会を約50年前に立ち上げた渡辺昇さんを以前、取材したとき、「かるたは、柔道や剣道と変わらない一つの道、『かるた道』です」と言われた。まさにその通り。技だけでなく、心も修練する道だと感じ入った。▼同協会は毎週1回、子どもの教室を開いている。岸田さんも、その教室で腕を磨いた一人。岸田さんの再挑戦を期待するとともに、教室からさらに名人位の挑戦者が出てきてほしい。 (Y)