「桜の樹の下には屍体(したい)が埋まっている!これは信じていいことなんだよ」と言ったのは、作家の梶井基次郎だ。梶井のこの幻想は、根も葉もないことではない。評論家の多田道太郎氏は、「春四月、みごとに咲く桜花を見ると、むかしの人は、先祖の霊がここに宿っていると思わずにはいられなかった」と書いている。▼桜花には、亡き人たちを思わせる玄妙な力がある。城跡の桜がとりわけ心にしみるのは、桜の美しさの陰に、城が栄えた当時の死者の像がひそんでいるためかと思う。篠山城跡周辺の桜もそうだ。篠山城の桜には、篠山藩の藩政下に命を落とした人たちの霊が宿っているのかもしれない。▼篠山藩では、他藩に比べて多くの一揆が起きたといわれ、一揆で処刑された人たちがいる。西日本15カ国の20にのぼる諸大名を動員し、わずか9カ月で完成したとされる篠山城の築城の陰にも多くの犠牲者がいた。▼藩政下での栄華と、その一方にあった負の側面。これらをすべて飲み込んだ歴史のうねりの上に今の篠山城があり、今の篠山市もある。▼篠山城跡の桜がらんまんと咲き誇る日も近い。そのなか、築城400年祭が始まる。城跡の桜をめでながら、死者の霊をしのび、歴史に思いをはせたい。そして、歴史の上に築かれる今後を見つめたい。(Y)