幕末期に来日した初代駐日英国公使のオールコックは、安全で安心に満ちあふれた社会を日本に見た。すべての店の表が開けっ放しになっており、家人たちが何をしているのかが外からうかがえる。それは食事の風景であり、昼寝であり、行水や家事、さらには裸の子どもたちの遊戯だった。無防備ともいえる開放感は、安全で安心が保障された社会だからこそだ。▼しかし、こうした風景は今や失われた。安全が脅かされることを恐れて家々は固く閉ざされ、家の中をうかがい知ることはできない。都市部だけではなく、地方も同様の傾向を強めている。安心と安全は、地方でも保障されなくなった。▼犯罪といえば、かつては大都市のものだった。しかし近年、地方にも犯罪が分散化し、「まさか、こんな所で」と驚くほどの凶悪犯罪が珍しくない。▼道路網の整備充実に、遠距離の移動が容易になり、犯罪も地方へと延びた。コミュニティが薄れ、匿名性が高まったことも、犯罪の防波堤を弱めた。インターネットや携帯電話の普及も犯罪の誘因となる。のどかな地方というのは、もはや絵空事なのかもしれない。▼ATM盗や、放火の可能性もある不審火が丹波地域で相次いだ。不気味な影が私たちの丹波にも忍び寄っているようだ。「まさか丹波で」と、驚きたくない。 (Y)