セキレイ

2009.06.11
丹波春秋

 「チュルチュルチュ、チチチ」。毎朝聞こえていた声がやんで、さびしい。キセキレイが社屋外壁に巣を張っているのを知ったのは、5月の連休明けの頃。小枝で編んだ巣は、雨露をしのげ、外敵も近寄り難い、絶好の場所にあった。▼脚立に上ってのぞくと、何羽ともわからないほど小さな雛が身体を寄せ合い、嘴だけはしっかり開けてうごめいている。すると、近くの電柱付近で親鳥がばたばたと飛び回り、甲高い声で騒ぎ始めた。「外敵が近寄らないよう、自分に注目を引かせているのよ」と妻。親鳥を心配させまいと、その後はできるだけ遠慮することにしたが、雛は6羽にものぼっていたらしい。▼そのうち親鳥夫婦のほかに、もう1羽が餌を運びに。「あれは何者?」といぶかしがっていると、鳥にくわしい社員が「去年巣立ったきょうだい。まだ自分の子はいません。弟たちのために助っ人に来ているんです」。▼えーっ、鳥の世界ではよくあることなんだって?独立して別々に暮らしているというのに、この巣の場所がよくわかったもんだ。人間よりよほどえらいではないか。▼「もう数日もすれば巣立ちかな。その時は激励をしてやろう」と思っているうち、ある朝、あまり静かなので行ってみると、すでにもぬけの殻。若鳥の雄姿は見られないままに終わった。   (E)

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