60年の長きにわたって、柏原にある劇団「劇研・椎の実」を引っ張ってこられた川村芳一さんが亡くなった。昭和23年、19歳で劇団を旗揚げし、昨年秋の公演を最後に引退。その人生はまさに「椎の実」と共にあった。▼何度か川村さんを取材した。座右の銘について聞いたこともある。その返答は、「握れば一点となり、開けば無窮となる」だった。この言葉の意味について「ヒヨコをぐっと手の中で握ると、ヒヨコは苦しくて暴れるでしょう。ところが、手を開いて包み込んでやると、ヒヨコはおとなしく手の中にいる」と説明してくれた。▼悲しみにこだわっていると、悲しみの深みにはまる。病もそうだ。病にふさぎこんでいては、病は逃げていかない。手の中に病を握るのではなく、手をぱっと開く。すると、病はこぼれ落ちてしまう。▼川村さんは10年ほど前、立て続けに大腸がん、胆のうがん、肝臓がんに侵された。しかし、それを克服し、演劇を続けられたのは、座右の銘が骨身を貫いた効であろうか。▼椎の実が創立40年を迎えた21年前、川村さんは取材に応じて「20年後の60周年公演では、私は80歳近く。ひ孫を連れて見に行きますよ」と話していた。しかし、実際は、体力の限界に抗しつつ主宰として60周年公演を支えた。あっぱれな演劇人生だった。 (Y)