トロイア遺跡の発掘で知られるシュリーマンが書いた日本の旅行記を最近、読んだ。幕末の1865年、わずか1カ月の滞在だったが、当時の日本人の特質をよく見抜いている。▼たとえば、簡素な暮らしぶり。畳の上で食事をし、睡眠をとる日本の住居には「家具の類がいっさいない」。正座をする文化には、テーブルも椅子も不要であり、畳はベッドの代わりにもなる。▼シュリーマンは思う。ヨーロッパでは家具調度の豪華さを競いあうが、それらは文明が作り出したものに過ぎず、本来は不必要でないか。ヨーロッパ人の参考になると感心した日本の暮らしぶりだが、その後の日本は、シュリーマンを裏切る方向に進んだ。▼旅行記には「この国には平和、行き渡った満足感、豊かさ、完璧な秩序がある」ともある。さらには「日本の役人に対する最大の侮辱は、たとえ感謝の気持ちからでも現金を贈ることであり、彼らの方も、現金を受け取るくらいなら切腹を選ぶ」。▼シュリーマンが訪ねた国はまぎれもなく我が日本なのだが、現代からすると、異国のような感がする。シュリーマンの訪日から150年足らず。その間に日本はいくつもの転換期を体験し、今日の姿になった。今また転換期にある日本だが、その指針を考えるとき、先祖に教わることも必要だろう。 (Y)