「1Q84」

2009.11.05
丹波春秋

 読書の秋たけなわ。今年1番のベストセラーは何と言っても村上春樹の「1Q84」だ。これは文句なく面白い。人にも勧め、以前読んだ作品や、映画化され来年公開予定の「ノルウェーの森」などももう一度本棚から引っ張り出してきた。▼春樹氏の小説にはよく不思議なことが起こり、霊魂のようなものも登場するので敬遠する人もいるが、決して怪奇なことはなく、いずれも内省的な物語だ。「羊」や「鼠」が登場して空気をつかむような初期の作品に比べると、「1Q84」は不思議ながらも実体感があり、ひと皮むけた感じがする。▼数年前に出た「海辺のカフカ」には、大量の魚が空から降って来る場面があった。今年、石川県などで何回か、現実にそういう事件が起こり、春樹氏はこんなことまで見通していたのかと面食らった。▼「1Q84」では、主人公の女性が「空に月が2つ見える」という、異次元の世界に入り込むことが、重要なポイントになっている。読み終えてから、この「2つの月」がずっと気にかかっていた。▼ところがこの夏、月と金星の次に明るいという木星が月のすぐそばにいるのを見つけた。今は少し離れたが、それでも呼応し合うように光っている。もしかしたらこれがヒントになったのかも知れない。色々なことを考えさせる「1Q84」である。(E)

関連記事