たき火

2009.11.02
丹波春秋

 今年も、マツタケを口にすることなく終わりそうだ。マツタケの産地といわれる丹波に住みながら、あのかぐわしい香りと縁遠くなって久しい。少し寂しくもあるが、外国の人はマツタケの香りが苦手だと、過日のテレビで放映していた。香りの好き嫌いというのは、風土に根ざしているようだ。▼私たちにとっては鼻をくすぐるような芳香が、異なった風土で育った人には鼻をつく悪臭となる。人の嗅覚と密接に結びついている風土。では、田舎の風土ならではの匂いとは。その一つが、これからの季節に登場するたき火の匂いだと思う。▼先ごろ、団塊の世代の女性から子ども時代の話を聞いた。思い出に残る風景の一つにたき火があった。「たき火というのは、当たり前の風景でした」という当時。村の子どもが三々五々集まって学校にみんなで出かける朝、近所のおじさんが稲わらなどを燃やし、暖を取らせてくれたという。▼寒さに震える体を暖めてくれた火のぬくもり、おじさんの人懐っこいやさしさ。それらに加えて、胸深く吸い込んだたき火の匂いが体の奥底に沈殿しているから、たき火の風景が記憶として残っているのだと思う。▼「さざんかさざんか咲いた道、たき火だたき火だ落ち葉たき」。日当たりの悪い我が家の庭のサザンカも、つぼみをつけた。 (Y)

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