死後の世界

2009.12.24
丹波春秋

 物理学者の故・戸塚洋二氏のブログを紹介した「がんと闘った科学者の記録」(立花隆編)について先月書いたが、クリスマスを前にもう一度。テーマは、物理や教育、以前住んだ奥飛騨の自然、病状のこと等々、実に多彩だが、中でも興味深いのは、宗教のことだ。▼「無神論者」と明言する戸塚さんは、しかし仏教学者の佐々木閑(しずか)・花園大教授の新聞エッセイや著書を再三引用。「仏教と科学との連携がいよいよ深まる」という教授の言葉にひかれ、「心の真理を探究するという仏教は、まさに科学と同じ」と述べる。▼「『世の中の出来事は原因に基づいた法則によって起きる』という仏教の原理は、現代科学と同じ」とも。どこまでも科学者である戸塚さんは、工学部化学科を出て仏教学の博士になった佐々木氏によほど親近感を抱いたのだろう。▼あるいはまた、キリストに導かれて貧者救済に一生を捧げたマザー・テレサが、「実は神の存在への懐疑と葛藤していた」というウェブ記事に衝撃を受ける。▼「天国は本当にないのか。誰もが死に行くとき、それが真実か実体験します。私も最後の科学的作業としてそれを観察できるでしょう。残念なのは結果をあなたに伝えることが不可能なこと」。この知性にして、やはり死後の世界のことは気にせずにいられなかったのか。 (E)

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