「おじさん、世の中で一番美しいものは恋なのに、どうして恋をする人間はこんなにぶざまなんだろう」。映画『男はつらいよ』の名ゼリフである。おじさんとは、寅さんのこと。おいっ子の満男が吐いたセリフだ。恋の達人の寅さんのおいっ子だけあって、恋の核心をついている。▼寅さんは、愛こそがこの世で一番大事なものだと考えている。「金なんかなくたっていいじゃないか、愛があれば」。寅さんにとって生きるとは、人を愛することでもある。▼恋しながら告白できずにいる男を見ると、寅さんは歯がゆくてならない。しかし、いざ自分が告白するとなると逃げ腰になる。何も言わず、黙っていることが男の美学だといきがる。▼寅さんに恋心を寄せるリリーとの問答がおもしろい。自分の恋愛に逃げ腰になり「男は引き際が肝心だ」と言う寅さんに、リリーがたたみかける。「自分じゃかっこいいつもりだろうけど、要するに卑怯なんだよ。意気地がないんだ。…体裁ばかり考えているエゴイストで、口ほどにもない臆病者で、ツッコロバシで、グニャチンで、トンチキチーのオタンコナスだよ」。恋をする人間はぶざまであっていいのだ。▼恋愛に積極的でないという特徴を持った「草食男子」が新語・流行語トップ10に入った。リリーの言葉を草食男子に捧げたい。 (Y)