遺言書

2010.01.07
丹波春秋

 「盛り上がる食卓よくぞ存(ながら)えて」―親戚の老女が一昨秋、90数歳で亡くなった。前日まで卓球を楽しみ、毎日川柳を作って、せっせと新聞に投稿。没後間もなく掲載された入選作が冒頭の句だ。その前月には、「延命拒否心生き活き書けるうち」の句も。▼話変わるが、高齢者となった春秋子はこの正月、初めて、遺言書なるものを試みた。毎年書こう書こうと思いながら、つい億劫で先延ばししていたのだが、3歳年上の友人が突然死し、奥さんから、あとのことを処理するのに半年以上かかったという話を聞かされたからだ。▼やってみると、どうということは少しもなく、あっけなく片付いた。葬式にこだわるわけじゃなし、どこかの大金持ちのように、相続税や贈与税に頭を悩ますこともないのだから、当たり前と言えば、当たり前。▼それにしても、自分がこの世に遺していくものが、こんなにも軽いかと、改めて気付かされると、むなしいどころか、すこぶる楽な気分になった。▼90歳過ぎまでながらえるつもりはさらさらなく、平均寿命を全うできれば十分。好きな運動をして、好きなものを食べて、気ままに駄文を書いて過ごす余生なんて最高だろう。そう言えば、「存在の耐えられない軽さ」という映画もあったな。あれは重い作品だったけれど。(E)

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