先日急逝した山田弘子さん(俳誌「円虹」主宰、「ホトトギス」同人)は端正かつ温かな句風だったが、珠玉のエッセイも残している。▼「Tさんのまなざし」は、難病のため五十音表を目で追って音を拾ってもらうことでしか句作出来ないTさんが、逝く1日前、自分の句が「円虹」の巻頭(最も優れた句)を飾ったことを知らされ、奥さんから句評を読み聞かされて涙したという内容。▼「寡黙なる鮑(あわび)と化して暮す日々」。「まなざしだけで綴った彼の句にいたく感動した私。…死の前日にそれを知った彼は、ひとすじの涙でそれに応えてくれたのだった」。▼山田さんには、宇多喜代子さんらと共に田ステ女俳句ラリーの選者として、10数年前から毎5月に柏原に来ていただいていた。和田山出身のせいもあってか、「柏原に来るのが何よりも楽しみ」と口癖のように言って下さっていた。▼直前に「円虹は満十五歳となりました」と、流れるような毛筆の寒中見舞を頂いたのに。急な訃報に驚いたのは、誰しもだった。葬儀に参列した日の筆者のツイート。「仕事をばりばりこなしておられた最中だったのに、本当に残念。弔句 何故急ぎゆかれしや寒明けたるに(稲畑汀子先生) いきいきと消えて輝く春の雪(宇多喜代子先生) 寒くしとしとと雨降る一日でした」。(E)