高校生の愛した駄菓子屋

2010.02.15
丹波春秋

 柏原高校の近くに「まつや」という駄菓子屋があった。店主は、谷口まつゑさん。1972年に開店した。▼開店して間もないころ、店に来た一人の男子生徒が「この店はなんちゅう店や」と聞いてきた。谷口さんが「あんたがつけてくれたらええわ」と答えたところ、「まつゑ」の名前にちなんで「まつや」となった。高校生が名づけ親となったこの店は、とりわけ運動部の男子生徒が出入りした。▼部活動でけがをした生徒は店に入るなり、「おばちゃん、傷テープ出して」。鼻血を出した生徒は「脱脂綿ないか」。雨が降ると「傘、貸して」。なじみの客は、高校卒業後もやって来た。「おーい、おばさん、息しとるか」。高校時代と同様、あどけなかった。▼結婚の報告に来る卒業生。大学合格を伝えに来る生徒もいた。なかには、後ろ向きで店に入ってくる生徒がいた。わけを聞くと、谷口さんに「受かってみせる」と宣言した大学に合格できなかったらしい。どの生徒も、谷口さんにとって孫のような子どもたちだった。▼柏原高校が創立100周年を迎えた13年前、本紙で100周年特集を組み、その一つとして谷口さんを取材した。その新聞記事を読み返し、谷口さんを思い起こした。先ごろの火事で、痛ましくも帰らぬ人となった谷口さん。ご冥福をお祈りします。(Y)

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