柏原町の幽石軒が、県の景観形成重要建造物の指定を受けた。幽石軒は、個人宅にある書院式茶室の呼称であり、江戸時代初期につくられた名園が茶室から眺められる造りになっている。幽石軒と命名したのは、柏原藩主の織田信憑(のぶより)。藩主をはじめ、多くの文人墨客が幽石軒を訪ねて茶を楽しみ、庭を観賞した。貴重な文化遺産だ。▼とはいえ、その方面に興味のある人を除いて、どれほどの人が幽石軒と聞いてピンとくるかとなると、あやしい。それが今回の指定で改めて注目されたことは喜ばしい。同時に、一般にはあまり知られていない文化遺産が丹波地方にはまだまだあることを示してもいる。▼幽石軒と同じ柏原にある一青堂の庭園もそうだろう。現在、丹波・篠山酒造組合の事務所がある一青堂は、もともとは片山八頂という文人の住居だった。長い歳月をかけて八頂が作り上げた庭は見ごたえがある。▼県文化賞を受けた郷土史家の松井拳堂が、自著『柏原町志』の中で一青堂の庭園にふれ、「永久に保存すべきものである」などと絶賛しているが、その割には一般に知られていない印象を受ける。▼丹波地方に眠る文化遺産を、今後も紙面を通じて紹介したいが、かくいう私自身が知らない文化遺産はまだ多くあるはず。地元再発見に努めたい。 (Y)