先月、アカデミー賞で6冠を制した「ハート・ロッカー」をそっちのけで、ライバルの「アバター」のことを書いたのは不公平なので、前者も観に行った。打ちのめされてしまった。さすが、審査員の眼は鋭い。▼「ハート・ロッカー」とは、米軍隊の隠語で、「極力行きたくない場所、棺桶」を意味するという。映画はイラク戦争でテロ組織が街中に仕掛けた爆発物の処理をする技術部隊を扱う。ひとつ間違えば命を失うという、誰もが怖がるこの仕事に、主人公はとりつかれたように入れ込む。▼全編が緊張に満ちたこの作品は、フィクションながら、実にリアル。イラク戦争がどうのこうのといったことは一切出さない、ハードボイルドに徹した画面なのに、見終えると、アメリカはなんと厄介な泥沼にはまりこんだものか、という感慨が確実に残った。▼アクションの連続、演じるのも男優ばかりというこの作品が、キャスリン・ビグローという女性監督によって作られたというのも驚異。まさに「初の女性の監督賞」に値する。▼そして、前に書いたように、女性的な視点をも持ち合わせる、「アバター」のジェームズ・キャメロン監督と彼女が一時、夫婦だったとは、これも実に興味深い。以前、2人で仕事をしたこともあるようだが、改めて共作を。いや、やはり競作か。 (E)