賄賂

2010.05.10
丹波春秋

 トロイア遺跡の発掘で知られるシュリーマンの日本旅行記に興味深いエピソードが書かれている。1865年のこと。日本に上陸し、「税関」で荷物の中身を調べるため、荷物を解くように指示された。大儀なため、官吏2人に袖の下を差し出し、免除を願い出たところ拒絶された。▼理由は、「日本男児たるもの、心づけにつられて義務をないがしろにするのは尊厳にもとる、というのである」。こう書かれた『シュリーマン旅行記』には、こんな記述もある。「日本の役人に対する最大の侮辱は、たとえ感謝の気持ちからでも、現金を贈ることであり、また彼らの方も、現金を受け取るくらいなら切腹を選ぶ」。▼ここには、日本男児もしくは役人としての凛とした誇りがある。お金に目がくらみ、自らの任務にそむくことは自分をいやしめることだという倫理観がある。賄賂を法律に照らして悪と断じる以前に、誇りや倫理に照らして賄賂を悪とする良心がある。▼こんな話もある。中国・後漢の官僚だった楊震(ようしん)は、賄賂ともなる私的な贈り物を一切受け取らなかった。このため生活は苦しかったが、「子孫に財産を残そうとは思わない。清廉潔白な人の子孫だ、と言われれば、それで満足だ」とした。▼清廉潔白を尊ぶ姿勢。改めて問い直したい。 (Y)

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