菅直人氏が橋本内閣で初めて厚生大臣に任命された時のこと。総理の部屋から出るなり、待ち構えていた省幹部から「おめでとうございます」と声をかけられ、「つきましては、秘書官には、私どもはこのような者でいかがかと考えております」「就任記者会見での挨拶文をご参考までに用意致しました」と、自分の名前までちゃんと入った原稿を差し出された。▼「新しいトップに対して部下が『よろしくお願いします』とは言っても、『おめでとう』と言う世界がどこにあろうか」と思った菅氏は、「官僚のペースに乗せられないように、とにかく記者会見では自分の考えを述べよう」と思った(岩波新書「大臣」)。▼今時、大臣を名誉職と勘違いしたり、就任会見で「これからじっくり勉強します」と話す閣僚はいなくなったはずだが、それでも、理想ばかり先行し、行き詰まってから現実について「学べば学ぶほどよく分かった」と、言ってのける総理さえいた。▼サラリーマン家庭に育ち、学生運動、市民運動から政界に転じて這い上がった菅氏は、2世、3世総理とは少し違うだろうという期待を感じさせる。女性問題による苦い薬も服用済みだ。▼とにかく、財政建て直しと明確な国家戦略。そして成長戦略。民主党が背水の陣を敷いたのと同様、日本国にも後がない。(E)