蛍と魂

2010.06.07
丹波春秋

 夏の夜に出会った1匹のホタルを題材にした作文を本紙6面に掲載している。「芦田恵之助先生顕彰作文コンクール」で特選に入った高見さやかさんの作文「蛍」だ。高見さんは、祖父が生前によく手入れをしていた竹やぶでホタルと出会った。▼そのとき一緒にいた小学生の弟が「今の蛍はおじいちゃんかもしれない」とつぶやいた。この言葉に高見さんは衝撃を受ける。「いつまでも心の中に生き続ける。これこそが祖父の『魂』なのか」。高見さんは、祖父の思い出が残る地で出会った1匹のホタルに祖父の魂を見た。▼光を放つホタルに魂を重ね合わせる。そんな心情を表した歌に、和泉式部の「もの思へば沢の蛍もわが身よりあくがれいづる魂(たま)かとぞ見る」がある。男に忘れられた式部が神社に詣でたとき、目の前をふっと飛ぶホタルに、肉体から抜け出た自分の魂を見たという歌だ。▼ホタルに魂を見る感性は、式部がそうであったように古くからのものであり、高見さんの弟もそうであるように子どもにも植えつけられていると言える。私たちに深く根づいた感性だ。それは、ホタルのはかない命と頼りなげな光に、人のあわれを重ねて見る感性であろうか。▼ホタルの季節になった。そんな時期に首相を辞任した鳩山氏。ホタルの光に何を思うのだろう。(Y)

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