『風にそよぐ墓標』

2010.09.25
丹波春秋

 25年前の夏、日航機が御巣鷹の尾根に墜落した。山南の歯科医、河原悟さん(56)の父親も日航機に乗っていた。そのときの一部始終をつづった本が先ごろ発行された。『風にそよぐ墓標』(門田隆将著)だ。▼同書によると、河原さんの父親も、兄も歯科医。遺体が安置された体育館で、河原兄弟は遺族でありながら、歯型や治療痕から遺体の身元を割り出す検視の作業に励んだ。現地の歯科医師会から「お父様を一刻も早くお探しになられたいなら、私たちと一緒に検視場に入りませんか。そして私たちを助けてください」と言われたからだ。▼河原兄弟にとって初めての検視。父親を何としても探し出したいという思いに加えて、遺体の身元を早く確認し、遺族のもとに帰してあげたいという思いが強まっていった。▼河原兄弟はその後、兵庫県歯科医師会に呼びかけ、検視を行う体制を整えた。阪神大震災、福知山線の脱線事故でも兄弟は精力的に活動。丹波署から、身元不明の遺体の検視を依頼されることもある。▼今も遺体と対面するまでは身がすくむし、寝る前に遺体の顔が浮かんだりする。精神的な負担は大きいが、「身元がわからないのは本人にとっても家族にとっても不幸なこと。早くご家族のもとに帰してあげたい」。自身の体験に裏打ちされた思いは強い。(Y)

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