「野球は、失敗のスポーツです」。私の知るかぎり、こう語った名選手が2人いる。野村元監督とイチローだ。なにが失敗なのか。たとえば、打撃だと、10回の打席のうち、3回ヒットが出れば良しとされるが、その倍以上の7回は失敗している。▼イチローは、「だから野球にゴールはない」のだといい、さらに高みをめざす。野村氏は、失敗が多いことを真剣に顧みると、「謙虚にならざるを得ない」という。10回打席に立てば、10本のヒットを打つのが、プロとして目指すべき姿。それができない自分のふがいなさを反省し謙虚であれ、と説く。▼「謙虚とは一段下へさがることですが、そこに飛躍がある。謙虚になることで向上心が芽生え、上を目指していくエネルギー源になる」というのだ(『一流になる人二流でおわる人』)。▼ボクシングの全日本新人王に輝いた角谷選手は試合に勝つと、必ず「応援があったからがんばれた」と話したという。ここには、おごりや自己過信が一点もない。試合に勝てたのは周囲のおかげと、へりくだる素直さ。感謝の心に通じるこの謙虚さが、野村氏の言うように角谷選手を飛躍させたのかもしれない。▼角谷選手の快挙は、同郷の私たちに明るい話題を届けると同時に、謙虚さの大切さも教えてくれた。これからも応援したい。(Y)