観光の本義

2011.03.12
丹波春秋

 今の栃木県の佐野藩に「観光館」という施設があった。その土地の産品を扱う施設ではない。藩の学校だ。優秀な藩士を養成し、藩の威光を示そうという気概を表した命名である。▼明治時代の始め、岩倉具視ら使節団が欧米諸国を視察し、報告書をまとめたとき、岩倉みずからが筆をとって報告書の巻頭に「観光」と揮毫した。欧米の視察を終えた今、これから日本の光を世界に示すという決意の表れが「観光」の二文字だったという。▼このようにかつて観光という言葉は、今と異なる意味で使われた。「光を観る」ことよりも、「光を示す」ことにあった。先日、篠山市であった観光座談会に、代表が出席した「集落丸山」はまさに光を示す観光地だった。▼丸山地区は市街地から車で7分ほどのところにある。わずか5軒、人口19人。空き家が7軒という小集落だ。そんな丸山地区に2年前、古民家を改装した宿泊施設が開設された。阪神間や関東圏から1年間で延べ240組も訪れ、各界の著名人も応援するなど、脚光を浴びているのだ。▼宿泊施設を運営するNPO集落丸山の代表は、「外部の方の高い評価で、丸山に住む私たちが地域の良さに気づき、地域に誇りを持つようになった」と話していた。地域を活性化し、住民が誇りを持つ。観光の本義はここにある。(Y)

 

関連記事