高倉健はなぜ女にも男にももてるのか。最新作「あなたへ」のロケ現場に密着取材したNHK特集番組を観ながら考えた。▼素顔の彼は冗談も飛ばすし、決して役のように不器用な男ではない。しかし実像からも全く同じく「孤独な佇まいが漂う」(北野武)のは確か。「生き方が芝居に出るということを、肝に銘じている」俳優だからだ。▼「あなたへ」は筆者も封切早々に観た。亡妻(田中裕子)の遺書に導かれ彼女の故郷、長崎県平戸を訪ねる主人公。偶然通りかかった元写真館の陳列窓で少女時代の妻の写真を見つけ、「ありがとう」とつぶやきながらコツンとこぶしを当てる。強く印象を残すシーンだが、撮影は1回きり。原則、すべてが本番という。▼「気持ちは映る。自分の心によぎるものがないと、テクニックだけでは演じられない」。そのために、普段から自らの生き方を磨く。酒タバコ、マージャンもギャンブルもやらない。好きな甘いものを控え、身体をいたわって心を感じやすい状態に保つ。我々には真似ようにも出来ないことだ。▼81歳で7年ぶりにスクリーンに登場した健さん。なお次作に意欲を示すが、ファンとして一つ注文。20歳も年下の役でなく、ここらで老いゆく身体をさらけ出すような役も望みたい。「堅気に戻って50年生き延びてきた元ヤクザ」とか。(E)