丹波市商工会であった講演で、講師が「一緒に働いている仲間達のフルネームを漢字で書けますか」と問いかけた。さて、あなたは―。▼職場の仲間だけでなく、取引先の社員もフルネームで覚えるという人がいる。昨年、丹波市工業会40周年式典で講演したタニサケ会長の松岡浩氏だ。営業で会社を訪ねたとき、社長や担当者はもちろん、取り次いでくれた人、倉庫の管理など裏方で働く人らのフルネームも覚える。▼出会ったり、電話で話すとき、姓で呼ばずに名前で呼んだり、フルネームで話しかける。すると、相手は『フルネームで覚えてくれているのか』と感心する。松岡氏は「名前を覚えるのも、誠意の表われ」という。ゴキブリだんごなどを製造しているタニサケは、従業員数約35人で、経常利益が2億円を超える優良企業だ。▼昭和天皇にこんなエピソードがある。皇居に生えていた草を、誰かが「名もなき雑草」と呼んだところ、天皇は「草にはみな名があります。『名も知らぬ草』というべきでしょう」とたしなめられた。▼草にも心があるなら、「名もなき草」には立腹するだろう。それに比して「名も知らぬ草」には、草の命に対する畏敬がある。名前は、その存在の命の表象でもある。さて、あなたは職場の仲間のフルネームを書けましたか。(Y)