東北と関西の距離

2013.05.09
丹波春秋

 東北新幹線の一関駅前から気仙沼行のバスに。発車間際、おじいさんが一人来て「どこそこに行くのは、これでええかね」。運転手「それでしたら、終点でまた乗り換えて下さい」。ところがおじいさん、出発時刻なのにいなくなってしまった。「あのお客さん、駅に荷物を取りに行かれたようです。恐れ入りますがもう少しお待ちくださいね」。乗客は誰も文句を言わない。▼ようやくおじいさんが乗り込んで「やあ、迷惑かけてすみませんな」。1時間半ほど、終点まで乗り通したのは数人だったが、おじいさん、降りる時も「本当にすまなんだです」と脱帽して降りて行った。こういう時、東北に来たと実感する。▼気仙沼の大島という所で、岸壁で数人の男女がワカメを大釜に入れていた。写真を撮らせてもらっていたら、「どこから来た?」「兵庫県です」「そうか。そこんとこを回ってだいん。雌株やっから」。ゆでたての鮮緑色の雌株を丸かじり。軟らかくてうまかった。▼筆者が20数年前、大阪から福島への辞令をもらった時、周りで福島と宮城の位置関係を正確に言える人は意外な程少なかった。行ってからは、土地の人達に打ち解けてもらうのに数カ月かかった。それほど「関西人」は警戒されていた。▼大震災後の今、東北と関西の距離は格段に縮まった。大凶事も、この点はよかった。(E)

 

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