敗戦後の日本が奇跡的な復興を遂げ、経済大国に成長できたのは、日本社会に根づいていた「商人道」によるところが大きいとの見方がある。支配階層の武士たちに「武士道」が浸透したのに対して、商人たちは独自の倫理的職業観を築いていた。それが商人道である。▼江戸時代、丹波にも教えが及んだ石田梅岩の石門心学(せきもんしんがく)では、商人として成功するには何よりも信義を重んじなければならないとした。鈴木正三という僧も、商人のありようを説き、「商売をする人は、一筋に正直の道を歩むべきであり、正直を貫けば万事うまくいく」とした。▼商人道の核となる徳目は「信」だった。「他人からの信用を得るのが成功に至る、最善の道であるというのが徳川時代の商売哲学だった」(中谷巌氏『資本主義はなぜ自壊したのか』)。▼現代、自利の精神に凝り固まり、信にもとる経済行為をする企業家がいなくはない。しかし、そうした企業家は早晩、淘汰されることを思うと、商人道の「信」は今も生きる徳目であろう。▼さて、と思う。政治家の徳目は何であるか、と。商人道と同様に「信」を最大の徳目としているとは、とても思えない。信を何度も踏みにじってきたため、有権者の間で政治に対する不信感は根強い。きょうのW選。何を信じ、1票を投じるか。(Y)