地元でとれた天然もののスッポンを扱っている山南町の「茶寮ひさご」の店主、眞鍋馨さんによると、冬のものと思われがちなスッポンだが、旬は今の夏だという。7、8月に多く捕れるらしい。▼美食家の北大路魯山人は、スッポンの質は餌によって決まるとしたが、眞鍋さんによると、天然スッポンの好物のひとつがタニシ。魯山人に、7歳の頃の思い出にふれた「田螺(たにし)」というエッセイがある。▼腸カタルを患い、医者からも見放されたとき、台所からタニシを煮る香りが漂ってきた。思わず食べたいと駄々をこねた魯山人少年。死に際の子どもの望みだからと、口に数粒のタニシが投げ込まれた。すると、不思議なことにめきめきと元気が出て、日ならずして全快した。魯山人が「毎日食っていると、なんだか体の具合がよい」というタニシ。そんなタニシが餌というスッポンは、まさに活力の源だろう。▼さて、この餌。国語辞典に「人をおびき寄せたり、関心を引くための目先の手段、物品」とある。かつて、有権者の耳に心地よい公約を並べる政治家のことを、「毛鉤で釣りをするようなもの」と表現した大物政治家がいた。▼毛鉤は食用ではないが、有権者の気を引く餌のような言辞を弄する政治家に明日を託しては、元気をなくしたこの国の活力は取り戻せない。(Y)