山口県や島根県で記録的な豪雨が降った日、奇しくも寺田寅彦随筆集「天災と日本人」を読んでいた。▼寺田は同書で、雨の名称が日本には多様にあると書いている。たとえば「春雨」「五月雨」「しぐれ」などだ。雨の降り方に関する表現が豊かな日本にさらにまた一つ言葉が増えた。いわく「これまでに経験したことのないような大雨」。▼寺田は、「文明が進めば進むほど天然の暴威による災害がその激烈の度を増す」とする。言わんとするところは、粗末な小屋に人が住んでいた時代ならば損害は軽微だが、現代は違う。しかも、現代は交通網や通信網など、さまざまなネットワークが張り巡らされ、1カ所でも故障が生じると、たちまち全体に影響を及ぼす。これらが先の言葉に背後にあるのだが、今日、別の解釈もできる。▼温暖化による集中豪雨多発の可能性は以前から指摘されていた。近年の集中豪雨の一因に温暖化が関わっているのが事実だとすれば、「災害を大きくするよう努力しているものは誰あろう、文明人そのもの」という寺田の言葉が真に迫る。▼寺田はこうも書いた。「浜の真砂(まさご)が消滅して泥になり、野の雑草の種族が絶えるまでは、災難の種も尽きないというのが自然界人間界の事実であるらしい」。この言葉の真実味が増す昨今の天災である。(Y)