「島倉千代子という人生」

2013.11.27
丹波春秋

 「島倉千代子という人生」(新潮社)を出した田勢康弘・元日経記者と共に彼女に会ったのは、10数年前。還暦を過ぎたばかりの彼女は美しかったが、すごく慎ましやかで、大スターという雰囲気からは程遠い感じの人だった。▼ガンに襲われた要因だろう、莫大な借金を背負っていたことはよく知られている。長年苦労して完済したものの、何故そんな目に遭わなければならなかったのか。▼同書によると、1度目は別居していた元タイガースの藤本勝巳が水商売に手を出して作った借金。泥沼に入った離婚問題に、返済を手切れ金にして決着をつけた。2度目も他人の借金。失明の危機を救ってくれた眼科医が、やはり事業に失敗し、恩人ということで手形に裏書きしてしまった。▼一時は10億円以上に膨らみ、いかつい顔の男らにつきまとわれるように。クラブを経営していた細木数子が乗り出したりして、この間、赤坂でママを務めたことも。▼金も財産も残さず、大した贅沢もしなかった彼女に田勢氏が「どうしてそう簡単に人に騙されるのか」と聞いたら、「信じないでどうするの?騙すより騙される方がずっといい」と怒ったという。死の3日前に吹き込んだ新曲「からたちの小径」は、まるで菩薩の声のようだ。「貴男のささやき信じてた…トゲのあることすらも忘れてた」。(E)

 

関連記事