いよいよ年の瀬。この時期を表現する言葉には、いろいろあるらしい(金田一秀穂氏著『オツな日本語』)。年末のあわただしさを表現した「年の急ぎ」、旧年と新年の境を関所に見立てた「年の関」。ほかにも「年の尾」「年の限り」「年の極め」などがある。▼なかでも面白いのが「年の峠」。1年の終わりに向けて山を登っていく。峠の向こう側には新しい年がある。峠に立つと、新しい年が望めるというわけだ。▼さて、この峠。全国各地を歩いた民俗学者の柳田国男氏は、旅の中でもっとも感慨深いのは「峠に立ったとき」と言った。「峠に立つと景色が一変する。こちら側と向こう側では空気までも違う」。景色も空気も変わる峠の向こう側に、新年がある。私たちが新年に希望を託すのは、足を踏み入れぬ向こう側の新鮮さや可能性に心躍るからだろう。▼とはいえ、現実では消費税増税が向こう側で待ち受けている。景気回復が実感できない中での増税。そう思うと、心躍る気持ちもなえてしまう。▼柳田氏は、峠に立つと、風を感じたとも言う。景色を眺めながら風に吹かれるのが旅の味わいだったそうだ。今年もあと10日。年の峠に立ったとき、吹いてくるのはどんな風か。寒風を予感し、身が震えるのなら、「春風や闘志いだきて丘に立つ」(虚子)とつぶやくのも一手だろう。(Y)