特定秘密保護法が成立する気配だ。40年前、外務省の機密が漏えいした際、「保護法は絶対必要」と国会で持論を述べた佐藤首相は、草葉の陰でほくそ笑んでいることだろう。▼同事件で西山・毎日新聞記者は沖縄返還交渉に当たっての同省密約電信文を入手した。表向き米国が支払うことになっていた地権者への土地原状回復費を、実際には日本政府が肩代わりする内容。ニュース源秘匿のため新聞では書けず後日、野党議員に流して質問させたのが裏目に出て、出所先の高官女性秘書が突き止められた。▼国家公務員法違反で逮捕された2人に対して、「血税を相手国のために使おうとした政府の裏取引を暴いたので弾圧された」と世論の支持が集まったが、「記者が秘書と情を通じそそのかして取材」との起訴状が発表されるや急に鎮静化。▼政府は公判でも一貫して密約を否定し、西山氏は一審無罪が高裁で逆転され、最高裁でも敗訴。しかし2000年、米国立公文書館に存在した一連の同交渉文書の内容が日本の研究者によって明らかにされ、政府が「機密」を盾に隠し続けた虚がようやく白日の下に照らされた。▼秘密保護法は一般の国民には「直接関係ないこと」と受けとめられがち。しかし山崎豊子「運命の人」ほか小説やドラマになった同事件を、いま一度振り返ってみたい。(E)