篠山市出身の岸田諭さんが、小倉百人一首競技かるたの日本一を決める「名人位決定戦」で見事に名人位の初防衛を果たした。テレビのニュース番組で決定戦の模様を見て、岸田名人の鮮やかな技に感嘆した。▼将棋界の名人、升田幸三が「上手」と「名人」の違いについて書いている(『勝負』)。上手は、習い覚えた理論に執着し、それを羅針盤にして動く。対して名人は理論を超越し、自由性を持つ。▼武道などの世界に「守破離」という言葉がある。「守」は、型を守ることに精進する最初の段階。次の「破」は、型にとらわれず、新しい型を編み出す段階。しかし、その段階にとどまっていては、誤ると無規律に陥るから、解脱しなければいけない。この解脱を「離」という。「離」の境地は、升田の言う名人の定義と符合する。▼一局ごとに新手を発見開拓するという意味の「新手一生」という言葉を作った升田の将棋は、よく創作将棋と言われたそうだ。解脱し、自由性を持つ名人の域を示す将棋である。そんな升田だが、名人位を獲得したとき、「たどりきて未だ山麓」と書いた。▼名人位を守った岸田さんは、戦いの後、「まだまだ歴代の名人には追いついていない。さらに精進していく」と語っている。「未だ山麓」に通じるコメントであり、名人の気品を感じさせる。(Y)