目に見えない社会資本

2014.01.25
丹波春秋

 イトーヨーカ堂グループの創業者、伊藤雅俊氏にこんな言葉がある。「お客様は来て下さらないもの、お取引先は売って下さらないもの、銀行は貸して下さらないもの、というのが商売の基本。だからこそ一番大切なのは信用であり、信用の担保はお金や物ではなく、人間としての誠実さ、真面目さ、そして何より真摯さである」。商売の核心をつく至言だ。▼信用、信頼の「信」。これは昔から商人が重んじた徳だった。評論家の山崎正和氏によると、商人は、支配階級の武士とは別に独自の倫理観を育んだ。室町末期から江戸初期にかけて急速に広まった、その倫理観こそ信だった。▼日本が経済大国として成長できたのは、信を重んじる精神が底流にあったからだと指摘する識者は少なくない。信で結ばれた関係を背景に、経済行為が活発化したというわけだ。この信頼関係は、日本の社会資本でもあった。道路などだけが社会資本ではなく、目に見えない社会資本もある。▼さて丹波市では、市長らトップが頭を下げる不祥事が相次いでいる。これは住民の信を裏切ることであり、企業ならば、お客からも取引先からもそっぽを向かれ、売り上げが減り、存続すらあやしくなる。▼住民と行政を信頼関係で結ぶ地域の社会資本に修復不能の亀裂が入ってしまわないかと危惧する。(Y)

 

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