渋さの美

2014.02.22
丹波春秋

 茶道の心得はないので、ものの本によるのだが、煎茶というのは第一煎でまず甘味を味わうものらしい。次いで第二煎で苦味、最後の第三煎で渋味を味わうのだという。この渋味が本当の茶の味だそうだ。▼甘味、苦味、渋味。これは人間についてもあてはまる。「あいつは甘い」と言われるうちは、人間ができていない。苦味が感じられるようになり、渋味が増してくると、人としての磨きがかかり、魅力に深さが出てくる。▼民芸運動を展開した柳宗悦も、渋味を最高位に置いた。「美に様々な相があろうとも、その帰趣は『渋さ』なのです」(『民藝とは何か』)と書き、渋さこそ「最高の美」とたたえた。渋さの美を工芸に求めるとき、民芸品に行き着かざるを得ないともした。そんな柳に、丹波布は高く評価された。▼人々に忘れ去られようとした時期もあった丹波布だが、今にしっかりと受け継がれた。丹波布が持っている渋さの美が、丹波布みずからを再生させ、受難を乗り越える力になったと言えなくもない。いっとき時代の波にのまれても、本物は残るものだろう。▼とはいえ、丹波布の復興に携わった人たちの力は見過ごせるものではない。その最大の功労者である足立康子さんが亡くなられた。今後は彼岸から丹波布を見守られることだろう。ご冥福をお祈りします。(Y)

 

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